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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)8864号 判決

原告 飯田鼎

被告 国

訴訟代理人 前蔵正七 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金一一五万円及びこれに対する訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  東京国税局長は、昭和三六年一〇月二五日、中嶋周吉の所有する別紙〈省略〉物件目録記載の建物(以下本件建物という)を、国税徴収法に基づく滞納処分として差押え、横浜地方法務局小田原支局昭和三七年一月五日受付第二号をもつてその旨の登記を経由した。その後本件建物について、同支局昭和三八年五月七日受付第四〇九三号をもつて、同月一日売買を原因とする渡辺正義のための所有権移転登記がなされたのち、東京国税局長は、昭和四三年一月一二日、公売の日を同月二三日とする公売公告をするとともに、見積価額を六一万五、〇〇〇円と公告した。そして、右公売の日に入札による公売を実施したので、原告は入札価額一一五万円で入札したところ、同局長は原告を最高価申込者と決定し、同月三〇日原告に対する売却決定をした。これに対し原告は同日買受代金を納付した。右代金は全額中嶋の滞納国税に充当させた。

(二)  ところが本件建物においては、すでに昭和四二年七月二五日、その敷地の所有者である宗教法人大蓮寺から、渡辺正義を被告として、中嶋から渡辺への本件建物の譲渡に伴う借地権の譲渡は大蓮寺に無断でなされたものであり、渡辺に敷地占有権原はないとの理由で、建物収去土地明渡請求の訴が横浜地方裁判所小田原支部に提起されており(同庁昭和四二年(ワ)第一六九号事件)、原告は、本件建物取得後の昭和四三年五月訴訟引受を命ぜられた。そして、昭和四四年一〇月三一日敗訴判決の言渡を受け、控訴したが、昭和四五年六月一日、賃料相当損害金の免除を受けることによつて、大蓮寺が本件建物を取得すことに同意する旨の裁判上の和解を成立させるのやむなきに至り、本件の建物所有権を喪失する結果となつた。

(三)  瑕疵担保責任

本件公売は、本件建物の所有権及びその敷地の賃借権を目的とするものである。このことは、本件建物が当時朽廃率約九〇パーセントに達しており、建物自体の価額は五万円程度にすぎないのに公売の見積価額が六一万五、〇〇〇円と定められたことからも明らかである。ところが原告は前述のとおり借地権を取得することができなかつた。なるほど、公売により建物とともに敷地の賃借権を取得しても、これをもつて当然には敷地所有者に対抗できないことは、後記被告の主張のとおりであるけれども、借地法九条の三の手続によつて借地権の確保をはかることが可能であるし、最悪の場合でも買取請求をすることができるのに、本件ではそれすらも不可能であつたのである。借地賃借権のないことが始めからわかつておれば、原告は本件建物を取得するようなことをしなかつた。よつて原告は、国税徴収法一二六条、民法五六八条一項、五六三条一、二項の規定に基づき、昭和四六年一〇月一三日被告に送達された訴状により解除の意思表示をする。

したがつて、原告は、差押を受けた納税義務者である中嶋に対し買受代金の返還を求めうるのであるが、同人は無資力であるので、買受代金により充当を受けた国税の債権者である被告に対し、買受代金全額の返還を求める。

(四)  錯誤による公売の無効と不当利得

仮に敷地の賃借権が公売の目的たる権利に含まれていなかつたとしても、原告は、本件建物の公売にあたり、敷地の賃借権ないし利用権が存在することを前提とし、その存在を信じて入札したのに、前述のように敷地の使用権原はなかつた。原告が右のように信じたことは動機の錯誤にすぎないにしても、建物だけは五万円ぐらいの価額であるのに一一五万円で入札したのは、借地権付であることを黙示的に表示したものであり、東京国税局長も借地権付であることを了承のうえ売却決定をしたのであるから、右は表示された動機の錯誤である。敷地使用権原は本件建物の公売にとり極めて重要な事項(要素)であり、原告の入札の意思表示に右のような錯誤がある以上、本件公売は無効である。

仮に動機の表示がなかつたとしても、動機の錯誤が無効原因とされないのは相手方の利益、取引の安全の保護の要請から加えられた解釈上の制限にすぎないものであり、見積価額、売却決定が借地権付で評価、決定されている本件の場合には、本則にかえつて入札を無効と解しても被告の利益、取引の安全をいささかも害しないから、本件公売は錯誤により無効とすべきである。

したがつて、被告は本件買受代金一一五万円を不当利得として原告に返還する義務がある。

(五)  国家賠償責任

国税徴収法による公売は、租税滞納者に対し、課税機関自身が、自己独自の強制手段によりそれを執行するものであるから、建物の公売にあたつては、その存立基盤となる土地賃借権等を十分調査確認したうえで見積価格を決定し、公売公告にも、国税徴収法九五条一項九号にいう「公売に関し重要と認められる事項」の一つとして、敷地利用権に関する事項を公告すべき義務があるにもかかわらず、東京国税局長はこれを怠り、漫然と敷地の賃借権付で見積り、あるいは敷地の賃借権付であるかのような感を呈する著しく不当な見積評価をしたうえ、公売公告において敷地の賃借権が存在しない旨を公告しなかつた過失により、原告をして敷地の賃借権付の建物と誤信して本件建物を一一五万円で入札せしめ、その後前述のとおり本件建物喪失のやむなきに至つた結果、原告に買受代金と同額の損害を与えた。

したがつて、被告は原告に対し、国家賠償法一条により、右損害を賠償する義務がある。

(六)  よつて原告は、被告に対し金一一五万円及びこれに対する訴状送達の翌日から完済まで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

二  請求の原因に対する認否、主張

(一)  請求の原因(一)の事実は認める。ただし、売却価額は一一五万五、〇〇〇円である。中嶋萬吉は、中嶋合名会社の無限責任社員であり、東京国税局長は昭和三六年一〇月二五日同人に対し、同会社の昭和三六年度法人税ほか合計九四八万九九〇〇円(延滞税、利子税、延滞加算税を除いた額)の滞納国税を徴収するため、国税徴収法三三条の規定に基づく第二次納税義務を課し、その滞納処分として本件差押、公売をしたものである。

(二)  同(二)のうち、原告に対する訴訟引受決定の日は昭和四三年七月一〇日である。裁判上の和解と原告の本件建物の所有喪失の点は不知。その余の事実は認める。

(三)  同(三)のうち、本件公売の目的物に敷地の賃借権等が含まれていたとの事実は否認し、その余の主張は争う。

1 建物の公売処分は、敷地の賃借権その他利用権の存否にかかわらず、建物の現況のまま公売するものであり、敷地の賃借権その他の土地利用権が存在するものとしてなされるのではない。このことは、建物所有者に敷地の賃借権があるときでも、売買人は建物と共に譲り受けた賃借権を当然に敷地の所有者に対抗できるわけではないことからも明らかである。本件公売処分においても、公売の目的とされたのは本件建物のみであり、敷地の賃借権は民法五六三条にいう「売買ノ目的タル権利」とされていないのであるから、その不存在を理由に同法条を適用する余地はない。

2 仮に借地権が公売の目的物に含まれているとしても、民法五六三条は、原則的には代金減額請求権に関する規定であり、移転できなかつた権利の売買目的とされた権利に対する割合により減額すべき代金の額を算出されうるような場合、すなわち一個ないし同種の権利の売買について適用される規定であり、本件のように建物と借地権という異種類の場合には適用されない。

3 仮に同法条の適用があるとしても、原告は本件借地権の瑕疵につき悪意であるから、同法五六四条により買受けのときから一年の除斥期間を経過したのちになされた契約の解除は無効である。

すなわち、本件公売公告には、建物の敷地について、「敷地所有者の小田原市南町二-四-九大蓮寺は、建物敷地、南町六八七番一、六八七番イ2の土地明渡および本件建物収去を求める訴を昭和四二年七月二五日横浜地方裁判所小田原支部に提起している。被告は文京区本郷二-九-一渡辺正義である。」と明記されている。通常、公売物件を買受けようとする者は、公売公告を熟覧して公売に参加するものであつて、原告もその例外ではないことは、本件公売公告と併せて公告した見積価額を原告が知つていることからも明らかである。

(四)  同(四)のうち、原告が敷地の賃借権ないし利用権ありと信じて入札したこと及び東京国税局長が賃借権付として売却決定をしたことは否認する。

1 本件公売公告に、本件建物とその敷地につき、建物収去土地明渡請求訴訟が係属中であることを明記していたことは前述のとおりであり、右公告が訴訟の結果によつては借地権が存在しない場合もあるとの趣旨を包含するものであることはいうまでもない。

原告は、この公告を見て入札しているのであるから、原告は借地権が存在しない場合もあることを、予め、熟知していた。

2 仮に原告が借地権の存在を信じて入札したとしても、右誤信は入札の動機に止まり、しかもそれは全く表示されていない。したがつて、借地権の存在は入札の要素ではない。

(五)  国税徴収法九五条一項各号には、建物の公売の場合に、借地権の存否等について公告すべき旨を定めた明文はなく、同項九号の「公売に関し重要と認められる事項」にも、借地権の存否等は含まれない。もともと、買受希望者が公売処分により権利を侵害されることはありえないから、公売公告は、滞納者及び利害関係人に対しては、その権利保護を目的とするものであつても、買受希望者に対しては、便宜供与の意味をもつにすぎず、したがつて、仮りに公告事項とされない事項によつて買受人が不測の損害を蒙つたとしても、それは買受人が取引に当り通常用うべき注意義務を欠いた結果にすぎない。それゆえ、仮りに東京国税局長が本訴公売に際し、本件建物の敷地賃借権の存否を調査せず、かつその公告をしなかつたとしても違法ではなく、この点に関し原告が主張するような義務は存在しない。

しかも本件公売処分の場合には、東京国税局徴収職員が、本件建物と敷地の利用関係とについて十分な調査確認を行い、通常把握し得る評価資料を収集検討して見積価格を決定し、さらに念のため、公売公告において、前述のとおり、敷地利用関係につき訴訟中であることを公告しているのであつて、原告主張のような過失は存在しない。

三  抗弁

仮りに公告の入札の意思表示に要素の錯誤があつたとしても、本件公売公告には、前述のとおり、本件建物につき建物収去土地明渡請求訴訟が係属中である旨記載されており、一般入が右公告を見ればず、本件建物につき、借地権の存否が争われており、訴訟の結果、借地権が存在しないとされる場合もありうることは、容易に予知できるところであつて、それにもかかわらず、原告が借地権が存在するものと誤信したのは、注意義務を著しく欠いたものでり、重大な過失がある。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求の原因(一)の事実は、売却価額の点を除いて、当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によると、売却価額は一一五万五、〇〇〇円であつたことが認められる。また、本件公売処分が、被告主張のとおり、中嶋合名会社の滞納国税を、第二次納税義務者である中嶋萬吉から徴収するためになされたものであることは、原告において明らかに争わないところである。

二  請求の原因(二)の事実は、原告に対する訴訟引受決定の日及び裁判上の和解と原告の本件建物所有権喪失の点を除いて、当事者間に争いがない。

三  そこで、まず、原告の瑕疵担保責任の主張について判断するに、国税徴収法一二六条によつて準用される民法五六八条、五六三条により契約の解除をするためには、買受人が善意のときは事実を知つたときから、悪意のときは売却決定の日から、一年の除斥期間内に(民法五六四条)、滞納処分にかかる国税の納税者、滞納処分が第二次納税義務者から国税を徴収するために行われたときはその第二次納税義務者に対して(同法五六八条一項)、契約の解除をしなければならず、右の場合に、納税者又は第二次納税義務者が無資力のため、買受代金の受領により国税を徴収したものとみなされる国に対して、買受代金の全部又は一部の返還を請求するときにも、納税者又は、第二次納税義務者に対し解除をしたのちでなければ、その請求をすることができないものと解すべきところ、本件の場合に、原告が本件公売に参加した際にすでに悪意であつたとの被告の主張をしばらくきておき、原告の主張自体から判断するとしても、原告は、その主張する裁判上の和解が成立した昭和四五年六月一日にはすでに借地権の不存在を確知していたものとみるほかはなく、そのときから一年内に本件公売処分を受けた第二次納税義務者である中嶋萬吉に対し契約の解除をしたことについては、原告においてなんら主張立証しないところである(記録によると、本訴提起の日も右期間経過後の昭和四六年一〇月六日であることが明らかである。)。したがつて、瑕疵担保責任に関する原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく、すでにこの点において失当として排斥を免れない。

四  原告は、次に、原告の入札の意思表示は錯誤により無効であるから、被告は原告から受領した買受代金を不当利得として返還すべきであると主張する。しかしながら、国税徴収法による不動産の公売は、滞納国税を徴収するために、国税徴収機関が、納税者又は第二次納税義務者の所有する不動産について、換価権能を取得し、それを実現するための公法上の手続であり、税務署長(又は国税局長)の行う売却決定は、その実体法上の効果としては、一種の売買として所有者たる納税者又は第二次納税義務者から買受人への所有権の承継取得の効果を生ずるものであるとしても、売却決定自体は一個の行政処分なのであつて、その前提要件となる入札に要素の錯誤がある場合にも、入札として表示された行為の外形になんら瑕疵のない以上、瑕疵の明白性を欠き売却決定そのものが当然に無効となるわけではなく、むしろ売却決定の取消原因となる瑕疵となりうるにとどまると解するのが相当である。したがつて、入札に要素の錯誤があることを理由に売却決定の効力を争うには、まず国税通則法の定める不服申立方法によるべきであり、所定の不服申立期間を徒過したときには、その効力を争う途がとざされることも、やむをえないものといわなければならない。これと異つた見解に立ち、入札に要素の錯誤があるときには、民法九五条の適用により、売却決定も当然に無効となることを前提として、被告が原告から受領し、国税に充当したものとみなされた買受代金を不当利得であるとして、その返還を求める原告の主張は、理由がない。

(なお、本件の場合、原告主張の錯誤はいわゆる動機の錯誤にあたるところ、後記認定のとおり、本件見積価額が本件建物に借地権の付着していることを前提とするものではないこと、敷地の更地価格ないし借地権価格と見積価額ないし入札価額とが不相当にかけ離れていること、公売公告に、敷地所有者から建物収去土地明渡請求の訴が提起されている旨記載されていること、並びに公売においては、定められた売却条件と異る条件による入札は許されないことに鑑みると、原告の入札の意思表示に、黙示的にもせよ、原告主張の動機が表示されていたものとは到底認めることができない。)

五  最後に、原告の国家賠償責任の主張について判断するに、原告は、東京国税局長が敷地の借地権付価額ないしは借地権付であるかのような感を呈する著しく不当な価額によつて見積価額を定め、公売公告において敷地の賃借権が存在しない旨を公告しなかつた過失により、原告をして借地権付の建物と誤信して入札をさせ、原告に損害を与えたと主張する。

しかしながら、〈証拠省略〉によると、本件見積価額の公告と一体の文書をもつてなされた公売公告には、本件建物の敷地について、「敷地所有者の小田原市南町二-四-九、大蓮寺は、建物敷地南町六八七番一、六八七番イ2の土地明渡、および本件建物収去を求める訴を昭和四二年七月二日横浜地方裁判所小田原支部に提起している。被告は文京区本郷二-九-一、渡辺正義である。」と明記されていることが認められ、右公告の文言から、本件建物所有者の敷地占有権原が、敷地所有者によつて訴を提起してまで争われている実情にあり、訴訟の結果によつては、敷地の占有権原が否定され、本件建物を収去すべきこととなる事態も予想されることは、容易に理解できることがらであり、前記争いのない事実(請求の原因(二)引用部分)に照らすと、右公告の文言に事実と相違するところはない。そして、〈証拠省略〉によると、本件建物の敷地である小田原市南町二丁目六八七番一、宅地、二八四・〇九平方メートル及び同番イ号の2、宅地、三一二・六一平方メートル(合計五九六・七〇平方メートル)の時価は、更地価格で、昭和四二年七月当時に一、三七一万円、昭和四三年二月当時に一四九五万円であつたことが認められ、原告本人尋問の結果によると、原告自身も、本件公売当時における右敷地の借地権価額を八〇〇万円ないし一、〇〇〇万円と考えていたことが明らかであり、証人高代功の証言によると、東京国税局特別整理第一部門評価係の高代功は、本件建物の見積価額を、建物自体については、復成価格から減価償却をする方式によつて評価し、それが敷地上に存在していることによる経済的価値については、前示のとおり敷地所有者と訴訟中であることも十分調査し、これを考慮して借地権の時価評価額から八割ないし九割という大巾な減額をした額を算出し、これと建物自体の評価額を合算したうえ、公売の見積価額であることからさらに二割を減じて六一万五、〇〇〇円と査定したことが認められる(これに反し、原告本人が、高代功が事後に借地権付の見積価額であると述べた旨供述するか、証人高代功の証言と対比すると、右供述はそのまま信用するわけにはいかない。)。これらの認定事実によると、東京国税局長が公告した六一万五、〇〇〇円の見積価額は、本件建物に借地権が付着していることを前提とするものでないことが明らかであり、また、右見積価額がその額において、借地権の時価と比較するとその一割前後という著しく低廉なものである(したがつて、もし借地権付建物の見積価額であるとすれば、不当に低廉なゆえに、かえつて違法とされるおそれなしとしない。)ばかりでなく、その公告と一体をなしてなされた公売公告に訴訟中である旨が明記されていることを併せ考えると、およそ本件建物の入札に参加しようとするほどの者であれば、何びとにも、借地権が付着することを前提とする見積価額でないことは、たやすく看取できるところであつたというべきである。したがつて、東京国税局長に原告主張のような過失があるとは認められない。

かえつて、〈証拠省略〉によると、本件公売公告を見ることによつて本件建物が公売に付されていることを知つた者は、公告の記載の様式からみても、当然に、前示のとおりの敷地所有者からの建物収去土地明渡訴訟についての文言に気付く筈であると認められるのに、原告本人尋問の結果によると、原告は、原告自身が三百代言ないしは事件屋と評価している訴外野原某から、本件公売建物の買受をすすめられ、見積価額が借地権付であるとすれば著しく低廉に過ぎるのに、借地権の存否についてなんら調査することなく、建物価額よりは高額であることから借地権付であると安易に即断し、また公売の日に公売の場所には出向いたが、公売公告も十分に閲覧しないで、野原を信頼し、入札手続をすべて同人に代行させ、野原は公売公告を見て訴訟中である旨の記載を知つていたものと推測されるのに、そのことを同人から知らされないまま、買受の手続を終つたものと認められ、原告が本件公売によりなんらかの損害を蒙つたとしても、それは、入札にあたり自ら尽すべき注意を怠つたか、あるいは信頼した代行者の不注意ないしは背信的な行為の結果として、結局は自ら招いものというほかはない。

原告の国家賠償の主張もまた理由がない。

六  よつて、原告の請求はすべて失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平田浩)

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